鳥、ホームレス、都会、舞う

上京してきて間もなく、付き合い始めた人がいた。今はもう辞めてしまった大学の辞めてしまったサークルの辞めてしまったパートの人。東京に生まれて育っておそらくは就職してって、東京に閉じ込められて生きていく人になぜか惹かれた。連れ出してあげなきゃとも思ったし、連れ込んで欲しいとも思った。手を引いて新宿の歌舞伎町を案内された、どうだお前はここで生きていけそうか? 

付き合った2年弱。愛のないセックスを片手ほどした。服を脱ぐ。体位になる。挿し込む。3つの行程をこなすだけの作業。こんなに痛いものならもう2度としなくていい、と泣きながら訴えた。フェラしてみ?と言われた。その人に初めてするフェラは、その人の友達に襲われたときに教わったものだった。あいつは上手いっつってたけど、別に普通じゃん。

まだ18歳の私は、セックスというものをよく知らなかった。男性器から汁が出るなんて、知らなかった。その人は、一度もイかなかった。人は気持ちいいとき喘ぐものなのだとも、知らなかった。なにもなかった。私は処女膜をなくした処女だった。

デートには2回ぐらい、行ったような気がする。憶えていない。憶えていないことばかりをしたような気がする。

どうしようもなくイタい人だった。自分の中になにもないくせに、なにかがあるようなフリをした。美しくない、とよく言った。相変わらずお前は美しくないな、て。美しさって結局は甘えなんだよな。そう続けた。私は美しく在りたかった、甘えになりたかった。女だから。

2年ぐらい経って、失踪した。そこで終わった。はじめから恋はしてなかった。愛はあった。でも情はなかった。ならなにもなかったのと同じだ。

 

 

 

高架線の下で、大量の鳥が何かに群がっているのを見た。なんだろう、と駆け寄ろうとした私の手を、その人がダメだよ、と引いた。瞬間、鳥が舞って、中には真っ黒いホームレスがいた。生きているひと。行こ、とその人が一瞥して進行方向へ歩みを進める。私がそれを追いかける。この人が好きだ、と思った。ここが東京なんだ、と思った。