はみ出していた人たちのこと
最近はみ出していた人たちのことを考えます。
私は田舎の街に生まれて、少しだけ裕福なお家の一人娘として育てられて、1日5時間ぐらい進研ゼミをやらされて、だからか分からないけれどかなり成績が良かった。性格も普通に明るくて、愛嬌があって、いじめられてたかもしれないけどそれに気づかないぐらい鈍感で、幸せな女の子だった。
真ん中にいる女の子だったので、はみ出していた人たちのことを知らなかった。
高校生になって大学生になってどんどんピントがずれて、位置がずれて、自分がはみ出したとき、田舎町にいた頃にはみ出していた人たちのことを知りました。考えました。
どんな気持ちで青臭い空気を吸っていたのか、蛇口を上に向けて水道水を飲んでいたのか、今でも少しだけ想います。
①こうちゃんの理科の時間
幼稚園から一緒だったこうちゃんという男の子がいて、ADHDという言葉がなかった当時から、『あの多動の男の子』と呼ばれていた。幼稚園の授業参観に来た私のおばあちゃんすら言っていたからよっぽど動き回っていたんだと思う。
こうちゃんは、お調子者で、とにかくよく騒いでいた。とにかくよく喋っていた(ような気がする、あまり覚えていない)。
低学年の頃お調子者だったこうちゃんは、高学年になって周りがませてくると、少し嫌われた。本人もそれを感じ取ったのか、あまり騒がなくなった。ケロロ軍曹の絵ばかり描いていた。
小学5年生の理科の時間に、先生の他に知らないおじいさんが来ていた時期があった。多分近所の人で、授業を手伝う学習ボランティア的な立ち位置だったのだと思う。私はその時こうちゃんと同じ班で、真ん中の列の一番後ろだった。
そのおじいさんは、周りの女子から『口が臭い』と煙たがれていて、教室の端っこで少し居づらそうにしていた。(ような気がする)(が、口が臭かったのは確かです)
そのおじいさんとこうちゃんが、それはもう、よく話していたのだ。
『じゃあ宇宙が爆発したらどうなる?』というような荒唐無稽な問いをこうちゃんが笑いながら問いかけ、おじいさんがニヤニヤしながら『それはお前、あれだよ』という風に半笑いで答える。具体的に何を言っていたのかは分からないが、そういったニュアンスだった。
理科に関係あると見せかけて全く関係ないような、どちらかと言えば空想科学読本の内容のようなはちゃめちゃな話を、二人は教室の後ろでぺちゃくちゃぺちゃくちゃ小声でくっちゃべっていた、毎時間。
先生もそれを注意しなかった。外部のボランティアだから注意しにくかったのか、こうちゃんはほとんどのテストが0点だったので諦めていたのか分からない。
でもこうちゃんが楽しそうだったので、覚えている。
②〇〇さんのシチュー
中学3年生のクラスに、知的障害の女の子がいた。名前を覚えていない、だから〇〇さん、にした。
中学には特別支援学級があって、給食とか行事の時だけ通常学級に混じる。〇〇さんは特別支援学級の子で、私のクラスに混じって、毎日給食を食べていた。
〇〇さんは3年生の時に関西から転校してきたので、誰も存在を知らなくて、何より知的障害なので死ぬほど浮いていた。なんというか、体育教師が担任のヤンキークラスだったので、私を含めた真面目数人もめちゃくちゃ浮いていた。担任がヤンキー側に立ってはっちゃけるというはちゃめちゃなクラスだったのだ。
給食は大きな講堂のようなところでクラスごとに横一列になって、ミッドサマーの縦一列バージョンのように食べるのだけれど、〇〇さんのいる周辺だけが水を打ったように静かだった。みんなが、〇〇さんをあからさまに無視していた。かなり最悪なクラスだったのだ。
ある日給食でシチューが出て、突然、〇〇さんがそれを食べてる最中にひっくり返してしまった。幸いトレーから出ることはなかったけれど、クラス全員が『あ〜あw』というようにそれを見つめていた。〇〇さんは『あ……』というように固まっていた。障害があるからないからではなく、あそこまでアウェイだったら私でも固まると思う。
担任は〇〇さんの斜め前にいたのに『ふ〜ん、で、どうすんの?』というような冷ややかな目で見ていた。
私は居た堪れなくなって〇〇さんの手を引いて席を立って、お盆に溜まったシチューを鍋に戻して、水道でお盆を流した。〇〇さんは『ありがとう、ありがとう』と小声で繰り返していた。
席に戻ると担任が『ありがとうね!w』という感じで私に軽く笑いかけて、〇〇さんに『結局人に助けてもらうんだね…』みたいな伏せた目を向けた。(これは私の妄想ではなくて、本当にそう。そういう人だったんです)
周りは私たちを無視するように食事を続けていた。席に戻った〇〇さんに、誰も何も言わなかった。
みんな死ねばいいのにな、とはじめて思ったのがこの時だったので、〇〇さんの名前は覚えていなくてもシチューのことははっきりと覚えています。
卒業文集で先生を含めてクラス全員から寄せ書きを書き合う、というのがあったのですが、〇〇さんのページだけはみんな字が小さくて、少ししか書かなかった。担任すら、一文で適当に書いていた。ヤンキーが『かわいいですねwwww』と真ん中にデカデカと書いていたのを思い出す。
〇〇さん、こんなクラスでごめんなさい。
③ヤンキーの卒業式
②のクラスで私は卒業を迎えて、多分卒業式をした。(卒業式の記憶はない)
卒業証書を片手に持ちながら体育館を出て、校舎に戻るとき、正門にヤンキーたちがいるのを見つけた。うちのクラスのヤンキーである。
卒業式出なかったんだな、と思った。
ヤンキーは髪を金、銀、白に染めて、こちらを睨んでいた。ゴツいバイクもあったと思う。
あのギンギラの髪の毛と、こちらをニヤニヤと伺う眼光だけ覚えている。
(例の最悪の担任が『あんたたち卒業式も出ずに何してんの〜〜〜???w』と大声を張っており、この人は本当に優等生よりもヤンキーが好きな金八先生の悪いとこどりオールスターなんだな、と思ったのを覚えている。)
卒業式に大人しく出ていられない、髪を染めてやる、でもやっぱり誰かに見てほしい、学校乗り込もうぜ、というリビドーの気持ちよさを感じた。大嫌いな田舎のクソダサヤンキー、私が大人しく国旗を見つめてる間に、お前らは杏林堂でメンズビゲンを漁っていたんだな。
苦しかったですか?学校は
戻ったとしてもあまり話したくないけど、あなたたちのことをたまに考えます。